本日、2015年8月5日に行われた「五輪エンブレムについての記者会見」を拝見して、佐野研二郎さんのファンのひとりとして、デザインに携わりデザインを信じるものとして思うところがあったので書きました。記者会見の様子はこちら「五輪エンブレム問題 制作者の佐野研二郎氏が5日に会見|BLOGOS」。
ロゴ・エンブレムデザインとは
デザインは「見た目」だけではなく「問題解決」です。その中にあってロゴデザイン・エンブレムデザインというのはまた特別なもので、例えば会社のロゴ・エンブレムは、単に社名を伝える役割だけではありません。
有名なエンブレムで言うとメルセデス・ベンツやアウディは、丸や直線を組み合わせた非常にシンプルな形ですが、そこにはきちんと意味が込められています。
メルセデス・ベンツの車体に輝くエンブレムは、合併前のダイムラー社が使用していたスリーポインテッド・スターとベンツ社の円形月桂冠とを併せデザインされたもので、3点にはそれぞれ「陸・海・空」の各分野でダイムラーベンツ社の繁栄が込められている。(Wikipedia)
現在のアウディ車に使われている「フォーシルバーリングス」と呼ばれる4つの輪を組み合わせたエンブレムは、かつてのアウトウニオンのエンブレムに手を加えたもので、アウトウニオン設立に参加した4社の団結を象徴するものである。なお、左から順にアウディ、DKW、ホルヒ、ヴァンダラーを指すものとされる。(Wikipedia)
どちらも形としてはすごく単純なものです。しかしその裏には、「歴史・印象・理念・方向性」からデザインを発想するプロセスがあって、形ができ上がります。
モチーフをシンプルにしていけば形が被るのは避けられない
わたしはデザイナーですが、「世界中どこにも無いものを作り出そう」と思って仕事に取り組んでいません。それは「伝える」ということがとても大事な仕事だからです。例えば、いまわたしがこの記事を人に伝えることができるのは「日本語」という伝えるツールを、先人が作り上げてくれたからです。
それはデザインにも言えることで、デフォルメされたキャラクターを見て猫だと思うのも、トイレのピクトグラムを見て迷わずたどり着けるのは、これまで積み重ねられてきたデザインがあって、それを知らず知らず学習してのことです。
モチーフの要素を削ぎ落とし、シンプルに印象を強めることは確立されたデザインのいち手法です。それを「T」という「誰もが知る文字」で行う限り、「形が似ている」という結果は避けられません。※もちろん全く同じ形のものは商標登録はできませんし、故意の模倣は別問題です。
「デザインの神様」はいません、少なくともわたしには。これまでに見てきた形、色、様々なものを内から引き出して、課題に沿って自分なりのデザインのプロセスを経てデザインが完成します。もし「世界中どこにも無いものを作り出せた」としても、おそらく誰にも理解されないと思います。それは本意ではありません。
デザインの盗用とは
今回考えるきっかけになった「五輪エンブレム」ですが、ベルギーのリネージュ劇場のロゴの作者から盗作ではないかと言う発言があったということで話題になりました。しかし、デザインを仕事にする方には「まさかそんな」という違和感を覚えた方も多いと思います。
五輪エンブレム作者の佐野研二郎さんが有名人だから?五輪と言う大きな舞台だから?どちらも不正解です、上記に書いたように「デザインの意図・プロセスが全く違うから」です。
しかし残念ながらデザインの盗用というのは実在はします。先日人気ファッションブランド「スナイデル」のコピー商品を生産・販売したという会社の社長が逮捕されるということがありました。しかしこれは「ターゲットが同じ、使用用途が同じ」ということで、プロの仕事として「似ている」と「盗用」は大きく違います。
ベルギーのリネージュ劇場のロゴ作者さんがどういった思いで、この問題を提起されたのかはわかりませんが、もしかしたら過去に、明らかなアイデアの盗用を受けたことがあるのかもしれません。だとすれば今回は全く別のケースです。会見の中で佐野さんが仰ったように、同じデザイナーとしてプロセスの違いを理解して、納得できると良いなと思います。
ロゴ・エンブレムは誰のため
ロゴやエンブレムは対外的なものだけではありません。お店でも会社でもイベントでも、このロゴを背負うのは中にいる人たちです。お店の、製品の、自分たちの、アイデンティティとしてそのマークを背負う。そのことに自信と誇りを持てるものでなければいけないと感じています。
会見で佐野さんが語られた五輪への思い、過去のデザインへの尊敬の念、すばらしいお話でした。これだけ考え尽くされた、そして選ばれたこのロゴ・エンブレムを「結果としての形の類似」だけで批判されることがないよう、これを背負って競技に臨むアスリートのみなさんがすばらしい結果を残せるよう、2020年に期待します。
まとめ
思いのままにダダッと綴ってしまいましたが、おそらくじぶんの周りの方はすごくよくご存知のことばかりで、自分なんかが書くのは少しおこがましいのですが。
しかし、自分の専門外のことは、どうやってどれが作られているのかわからないことが多いです。こういうとき、じぶんはデザイナーとしてどう伝えていくべきか、というのは課題だと思っています。